プログラミング教育の現場から

情報計画とプログラミング
コンピュータの本質を学ぶには、プログラミングの経験が重要

大岩 元教授
慶應義塾大学環境情報学部教授・理学博士

慶應義塾大学環境情報学部 教授・理学博士。日本ソフトウェア科学会 、情報処理学会、電子情報通信学会所属。著書に『情報科教育法』(オーム社、2001年)、高等学校教科書『みんなの情報B』(オーム社、平成14年)ほか多数。

情報教育において、なぜ「プログラミング」なのか

情報教育において大切なことは「生きる力」を身に付けるということです。特に、プログラミングを経験するということは、進行のプロセスを学ぶことであり、今日の情報化社会を生き抜くためには、とても重要なことであると考えています。具体的にプログラミングを行う際の手順を考えてみましょう。

まず、プログラムを組むためには、その目的を的確につかまなければなりません。次に、その目的を達成するために、何をどのようにすべきかという計画を立てます。そして、それを実行に移すことによってはじめて、設定した目的が達成されます。このような4つの大きなステップを経て、1つの処理を成し得るプログラムが完成するわけです。これは、そのまま「仕事を達成する」という生きるために必要な手順と全く同じです。
そして、今日の情報化社会では、「実行する」という部分が、人間の手からコンピュータに置きかわっているのです。

プログラミングを経験することは、コンピュータの本質を知ることでもあります。もともと人間の手で行っていた実行が、コンピュータによる「実行」に移行するにつれ、何をコンピュータにやらせて、何を人間が行うか、という「判断」が必要になってきます。このような判断ができるようになるためには、根本を考えるという手法の習得とともに、コンピュータでどのような処理ができるのかという仕組みを知らなければなりません。このコンピュータの仕組み、いわば本質を理解するためにも、プログラミングの経験が必要不可欠なのです。

情報教育は、まず、仕事の手順を考えることが大切であり、そしてコンピュータによって実行可能な仕組みを教えること、これらがメインの教育にあるべきだと、私は考えています。

プログラミングは何歳で教えるべきか

プログラミングを何歳で教えるべきか、という議論には、日本やハンガリーなど、多数の研究があります。日本では、京都大学の子安増生先生が5~6才でもプログラミングができるという論文を発表していらっしゃいます。

一方、私も、現在大学生にプログラミングを教えているのですが、現状では18歳を越えると、教えてもなかなかできないのですね(笑)。なぜできないのでしょうか? 18歳では、年齢的に遅すぎるという意見もあるかもしれませんが、私がプログラムを書いたのは20歳の時からですので、一概に年齢のせいだけとも言えないと考えています。

プログラミングを習得できないのはなぜか

「なぜ今の学生は、プログラミングをなかなか習得できないのか」その大きな理由には二つあります。そのひとつは、一般的に言われている「学力の低下」です。

現在の教育では、論理的に考える訓練がなされていません。例えば、分数。分数の計算は、小学校で勉強するので、小学生は計算ができます。なのに、時が経って、高校生になるとできない。忘れてしまう。大学では必要になるから困るのですけれどね(笑)。分数の計算ができないということが問題ではありません。分数を使う場面がないために、いざ計算しようと思ってもできないということが、まず挙げられる環境的な問題です。ですが、なぜ前できたのに、今できなくなるのかという部分については、小学教育に問題があります。分数の本質的な意味ではなく、計算の解法を教えているという教育手法に起因しているのです。物事の意味を考えるという訓練を行っていない。これが学力の低下を引き起こしており、今の学生のプログラミングができないという原因となっています。スタジオ・ジブリの「おもひで ぽろぽろ」には、意味を考えずにはいられない子供が、分数の割り算でつまづく例が描かれています。つまづく子供の方が、これからの情報化社会で必要とされる人材なのですが。

もうひとつの理由は、「プログラミングを勉強する必要がないと、皆が信じていること」です。これは、学生だけではなく、今の社会がプログラミングの能力を認めていないのです。プログラマーに対して、リスペクトを払わない。こういったことが、プログラミングができないという実態に影響しています。

情報におけるプログラミング教育の取り組みは

残念ながら現状の情報教育において、プログラミング教育は、あまり比重が高くありません。「プログラミング教育があっても良い」という程度のスタンスです。諸外国では、プログラミング教育が既に普及しているのに、今の日本の教育では普及していない。そして、外国でなぜプログラミングが教えられているのかを考えていない。また、それに気付いていないことが最大の問題だと感じています。

具体的なやり方は忘れてしまっても、原理というのは覚えているものです。プログラミングは難しいですが、上手く行かないことを体験することというのは、実は大切なことなのです。自分の書いたプログラムがちゃんと動くように祈る。動かなかったプログラムが動いて感動する。こういった体験を積むことが、今後の教育において重要なことであると考えています。

根本を理解していないことにつながりますが、コンピュータを使うということは、自分の仕事を理解しているか、ということになります。地球が回っているという現象について、なぜ回っているかを理解しているのと同じことです。

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※監修:大岩 元(慶應義塾大学環境情報学部教授)/作成:株式会社 オデッセイ コミュニケーションズ

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