プログラミング教育の現場から

学生のやる気を引き出し、
IT知識を身につけさせるためにIT資格は有用

木枝 暢夫教授
湘南工科大学 工学部 マテリアル工学科 教授

工学博士。大学のカリキュラム策定の主導をとり、エンジニアの育成に情熱を注いでいる。専門は、固体反応化学、無機材料プロセス。主に環境・エネルギー関連の触媒材料をターゲットとし、高機能をもつ新物質の合成または既存物質の複合化と微細構造制御による高機能化を目的とした新規材料プロセスの開発研究を行なっている。

湘南工科大学の特色を教えてください。

工学部の単一学部で、6学科を持つ大学です。学科の内訳としては、機械系として「機械システム工学科」と「機械デザイン工学科」の2つ、そして「マテリアル工学科」、「電気電子メディア工学科」、また、情報系として「情報工学科」「システムコミュニケーション工学科」という学科があります。

情報系の学科の特色を説明いたしますと、情報工学科では数理の基礎からハードを含めたプログラミングなどの内容中心となっている一方で、システムコミュニケーション工学科では比較的ソフト面の特色が強く、システム制御のような工学的なものに加えてコミュニケーションやコンテンツ制作といった文系分野も含んだ応用的な内容となっています。

その情報系の二つの学科では、当然、コンピューターに関連した教育課程が中心になっておりますが、情報系以外の学科を含む工学部全体としても、既に、コンピューターを扱うといったことが一般的になっており、IT教育の必要性が高くなっております。そういう意味から、ITの基礎教育というものを全学科共通で実施をしておりまして、湘南工科大学は、情報教育を大変重要視している大学だといえます。

資格に対する取り組みはどのようなものでしょうか?

湘南工科大学は、情報系の学科に限らず各種検定・資格の取得を奨励しています。その中でも情報系の資格講座を積極的に実施している背景のひとつには、全学的にITの基礎教育を補うという意味が挙げられます。

これまでは、大学で資格というものが重視されることが少なかったため、ダブルスクールで学生個人が自主的に資格を取得していくという流れがありました。そこで、大学の学内で資格を取ることを奨励し、さらに資格講座を学内で実施することによって、資格を取りやすくするという枠組みを作りました。

また、あるレベル以上の資格については、大学の卒業要件の単位として認定するという制度も設けました。学科によって認定できる数が異なるのですが、基本的には、学生が自主的に取得した資格や検定を自己申告してもらいます。

そもそも、どうして資格を単位に対応させていくのか疑問に思われるかもしれません。それは、どこの大学でも問題になっている部分なのですが、結局、学生をどうやって勉強させる気にさせるかという課題があるのです。やる気にさせるためには、いろんな仕掛けがあるわけで、インターンシップというのもひとつだと思いますし、資格を取る・資格を取るために勉強するということも学生にとって学習意欲を向上させるとてもよいきっかけになります。

大学の勉強というのは、もともと広い分野のものを総合的に学習して、最終的に卒業時に形になるという漠然としたものであり、なかなかモチベーションを保ちにくいものなので、そこを資格取得という短期的ではっきりとした目標で補っていくというイメージです。この制度は学生からの評価も上々で、学習意欲を一層向上させる効果も上がっています。

さらに、資格取得を導入することにはもうひとつ意味があります。例えばですが、学生が資格を取得できなくても、どれくらい自分が理解できたかを客観的に判断できるという良さです。また、どの学生に対しても平等に評価されるという「公平さ」や、すぐに自分の学習結果がわかるという「同時性」があることも、資格の導入のメリットだと考えています。

実際には、最初に初級シスアド取得のための正課外の講座を実施しました。初級シスアドというとそれなりの難易度があり、また費用も必要とするのですが、情報系の学科の学生にとどまらず、工学部全体で大勢の学生の利用がありました。情報系以外の学生からのニーズを捉えることができたわけです。その流れを汲んで、次に初級シスアドよりも取得しやすく、また、具体的に役に立つ資格という意味を踏まえて、オフィススペシャリストの資格取得講座を導入しています。開始しました。今後もさらに、こういった資格の幅を広げていく取り組みを検討しています。そういう流れの中で、VBAエキスパートも候補に挙がっているという状況です。

さらに湘南工科大学は、工学部では珍しく、ボランティア活動を課外授業として導入している大学でもあります。これも自己申告制をとっており、導入の背景は、やはり学生をどうやって勉強する気にさせるかということにあります。こういった取り組みは、従来の大学という枠組みからは外れますが、今後は重要になることと認識しており、この点では先端の大学ではないかと思います。

【お話をしてくださった方々】

教務部長 木枝暢夫 様(中)
教務課 課長補佐 米川哲朗 様(左)
総務部 広報担当 楠部美穂子 様(右)
教授陣と教務課が一体となって、学生のための最良の制度やカリキュラム内容を検討し、さらにそれを全国に先駆けて実施している先端の大学であるという印象を受けた

情報に関する教育カリキュラムはどういったものでしょうか?

基本的にはまず、情報処理演習1、2という授業を全学科1年次で実施します。コンピューターを使うという基本的な部分から開始しておりまして、そのほかにレポート作成に必要なWordやExcelを活用するという内容から、ネットワークの扱いや、UNIXのコマンド体系を理解するといったような内容が含まれます。

その後は、学科それぞれの講義になりますので、情報系の学科であれば、情報に関するカリキュラムがぎっしり組まれますし、学科毎の専門的な内容に移っていきます。

一方で、直接的ではないにしろ、情報系以外の学科でも情報教育に関するボリュームが増している状況です。
たとえば、工学部ですので多くの学科で学生実験というものがあるのですが、マテリアル工学科では、その学生実験のレポートを講義室でノートパソコンを使って書かせています。教員が作成指導をする中で,同時にWordなどの使い方も教えることができるわけです 。

VBAやVB(Visual Basic)は、
ゼミなどの研究分野でどれくらい使われているのでしょうか?

VBやVBAの利用に関しては、研究室によって違います。実際には、装置制御やデータ収集をコンピューターで行うような研究室では,利用されているケースがたくさんあります。そこでは、学生が必要性を感じて自分自身でマクロを組んでいるという状況がほとんどと思われます。情報系以外の学科でもプログラミングの授業があり,その中でVBも一応は教えられてはおります.しかしながら,使いこなすまで学習させるだけの授業時間を確保することは今後とも難しいでしょう。

実際に、私の研究室でも、計測器から測定値をExcelに取り込んで解析するようなプログラムを自分で作成して活用していた卒研生がいました。そういう意味では、必要性を感じた学生が,自発的にVBAエキスパートのような資格取得講座を取っていくのではないかと想定しています。

今後どういった人材を育成していくことを目指していますか?

18年度からカリキュラムの改定を行うのですが、今考えているのはひとつの分野だけを深く学ばせるのではなく、技術系を幅広く勉強させるというカリキュラムの実施です。これまでは、機械系の学科を卒業すれば、機械のエンジニアとして社会に出るといったような一学科一エンジニア対応であったわけですが、実際の卒業生の就職先としては、幅広い分野に羽ばたいているし、しかも、新しい分野が次々に誕生している。

そこで、それぞれの学科が少しずつ出し合ったようなかたちを考えています。そうしますと、必然的に情報系の授業に対するニーズが大きくなると予想されるわけで、今後は全学科でIT教育を柱に据えて展開していくことを構想しています。

たとえばですが、福祉とか介護とかそういった新しい業界でも、エンジニアが活躍する場がある。これは、ボランティアを単位認定に取り入れていることにも通ずるのですが、ジャンルが違うところでも技術者が必要とされている。そういった意味でひとつのことだけではなく、工学系の知識を幅広く持ち、そしてプラスアルファとしてITの知識も持っているようなエンジニアを育てたいと考えています。

2005年3月、湘南工科大学では、希望する学生に対して、VBAエキスパート Excel 2002 VBAの取得講座と試験を実施。
講義はクレムスITスクールが担当し、湘南工科大学の学生で初となるVBAエキスパート資格取得者が誕生した。 右写真はVBAエキスパートの講義風景。
 
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