あの話を聞いたときに…
「ああ。江口さんが『おまえのVBAが、すごいすごい』と会社中にふれまわってたときがあったろ?
あの話を聞いたときに、ピーンときたんだ。
これはイケるんじゃないかって」
星くんの脳裏に、初めて作ったVBAプログラムで、江口さんの大失敗を救ったあの日の光景が、
鮮明に浮かび上がってきます。
「(思い出したぞ…そうだ、あいつペラペラといいふらしまわってたっけ…)」
「これができたら、営業課、生産管理課ともに、かなりの効率化が期待できる。
だからどの開発よりも、最優先で取り組んでほしいんだ。わかるな、星」
岩田部長が、有無をいわさぬ口調で畳み掛けます。
「たのむよ星。
長年頭痛のタネだった…この業務から、やっと解放されるんだ。やってくれ!」
小口さんも、熱いまなざしを星くんに向けます。
「(…そんなに熱く語らなくたって…
こっちには断る選択肢なんて最初からないんだし…)」
星くんはゲッソリとした表情で、
「わかりました…。戻ってメンバーの皆と、スケジュールの検討をします。
技術的な部分で、少しお時間をいただくかもしれません。
…あと小口さん、CSVデータのサンプルを入手できませんか?
取り込むデータのレイアウトを調べる必要がありますので…お願いします」
「データサンプル?本番のデータでなくてもいいんだな?
…それなら担当者に頼んで、早速送ってもらうようにするよ。まかしとけ!」
小口さんが、ガッツポーズをします。
「…星。このシステムが完成したあかつきには、社長賞に応募しようと思ってるんだ。
このシステムには、それだけの価値があるとワシは考えている。たのんだぞ、星!」
社長賞という岩田部長の言葉に、星くんはピクンと反応します。
「(でた…。いつか社長賞を…は、部長の口ぐせであり夢だからな…。
でも、それだけの価値がこのシステムにはあるってことか…う~ん)」
星くんは、"なんとかがんばります"と告げ、会議室を後にしました。