いつも悪いですね
ピンポーン。八木くんの部屋の、チャイムの音が響きます。
「はいはいはいはい。お待ちしておりましたよーっと」
八木くんがにこやかにドアを開けて、3人を出迎えました。
「八木さん、これみんなで買ったおみやげです。
駅前のドーナッツ」
「うひょー!大好物です。
いつも悪いですね」
「いえいえこちらこそ、いつも大人数で押しかけてすみません」
岬さんが、ドーナッツの箱を八木くんに手渡します。
「大人数といえば……ホントはもう一人、メンバーが増えるはずだったんだけど。
岬さんの指導してる、新入社員の子」
星くんは部屋のスミに腰を下ろしながら、思い出したように言いました。
「岬さん、もう後輩にVBAの指導をしてるんですか…?すごいですね。
…まあ、岬さんなら大丈夫でしょう。
教え方うまいから」
誰もVBAの指導なんて言っていないのに、八木くんは当たり前のようにそう言います。
「あはは…。いえいえ、私なんかまだまだです」
岬さんは、うつむき加減に顔を赤らめます。
あまり、この話題に触れてほしくないみたいです。
「どんな感じの子なんです?その、新入社員の子」
「森川くんっていって、情報学科を卒業したバリバリの実力派よ。
すんごい勢いでVBAをマスターしていってるみたい…。
彼女、相当あせってたもん」
泉先輩が、岬さんを指差しながら話に加わります。
「森川くん…。
そいつ、男ですか…」
八木くんの顔が、ヒクリと引きつります。
「ま、まあ…その話は置いといて…。
とりあえず勉強を始めましょうよ」
岬さんが両手をヒラヒラさせながら、その場を取り繕います。
彼女の顔は赤く、額には汗が滲んでいました。