いかがなものかしら?
「あら、ステキなお話ね。
でも、どうしようかしら……」
泉先輩がそう答えるのを聞いて、星くんの背中に冷たい汗が滲みます。
「あたしは技能実習生受け入れに関しては素人だし、せっかく現地に行っても、
あまりお役に立てることはないかもしれないわ…。
そうすると、ハノイやホーチミンの観光をしに行くだけになってしまうんじゃないかしら…?」
泉先輩が、若をまっすぐに見つめます。
「その間あたしが会社にいれば、有意義なVBAの開発を2つ、3つできるかもしれないわね。
大切な会社のお金を使って、ただ観光しに海外に行くのは、
我が社のためとしていかがなものかしら?」
泉先輩に見つめられ、若の顔がみるみる赤く染まります。
彼は、通りかかった店員に声をかけました。
「すみません。
お冷もってきてください。ジョッキで…」
店員が運んできたジョッキのお冷を一気に飲み干すと、襟を正して背筋をまっすぐに伸ばしました。
「岩田さん、オーグチさん。みっともないところをお見せしました。
……先ほどのお話、岩田さんのおっしゃる通り社内的な調整が必要だと、私も思います。
…この場ではお約束できませんが、一度親父…いや社長と、きちんと話し合ってみます。
その上で、方向性の打ち合わせをさせていただきたいのですが、いかがですか?」
「……ああ。助かります。
ぜひ、そうしていただけますか?」
岩田部長がホッとした顔でうなずきます。
「(すげえ…!
若でさえも、先輩には頭が上がらないのか……、
なんて説得力なんだ。
俺も早く、先輩に釣り合うくらいのオトナにならなきゃ…)」
星くんは泉先輩の、どうどうとした顔をまぶしそうに見上げました。