もう出社してる
「おはようございまーす!」
翌朝、出社した星くんが元気よく挨拶します。
カタカタカタ…、忙しそうにキーボードを叩く泉先輩の姿が、星くんの視界に入りました。
「(げ、先輩もう出社してる…昨日の続きかな?)」
星くんは彼女の席にソーッと近づき、VBEの画面を覗き見しました。
Set o = Rows(1).Find(ListName)
If Not o Is Nothing Then
c = o.Column
r = Cells(Rows.Count, c).End(xlUp).Row
「(リストのアドレスを取得する処理かな?
……列を特定する部分は、Findメソッドを使うのか…。
データの最終行はEndプロパティでちゃんと取得しているな…。
想像してたよりも、ちゃんと作ってるぞ)」
彼はホッとした表情で、胸をなでおろします。
「おはようございます、先輩。
オーグチさんの案件の続きですか?」
「……おはよ、星くん。
うん、あれから結構進んだのよ」
モニターを見つめる先輩の表情は、真剣そのものです。
星くんは彼女の、意外な一面を見た気がしました。
「(先輩…思いのほかこういうの好きなんだな。しばらく邪魔しないほうがいいか…)
…すごいですね、まだ一日ですよ。
キリのいいとこまで進んだら、一度見せてもらえますか?」
「……ん。わかった。
キリのいいとこまでいったら、声かける」
星くんは静かに、彼女の席から離れます。
経験上、こういうときは、そっとしておいてほしいのを知っているからです。
「あーーー、泉くん。ちょっといいかな?
こないだの、生産会議の資料なんだけど…」
岩田部長が大声で、泉先輩を呼びます。
彼女はキーボードを打つ手を止めると、鼻息をフーーーッと吐き出して、部長をにらみました。
「…はい。会議の資料が、どうかいたしまして?」
「あーーいや…、忙しいとこ悪いね。
…このグラフの数字なんだけど…」
岩田部長は、バツが悪そうな顔で資料を指差します。
星くんは眉毛をハの字に曲げてアチャーという顔をしました。