進展はありました?
フンフンと鼻歌を歌いながら、オーグチさんが資料室へと続く、長い廊下を歩いています。
前方からキビキビとした足取りで、岩田部長がこちらに向かってきました。
「部長、おはようございます。
電算室と梶田部長の件、その後何か進展はありましたか?」
オーグチさんが声のトーンを抑えて、岩田部長に尋ねます。
「……伝家の宝刀の件か?
それなら……」
岩田部長はオーグチさんの顔をじっと見つめると、モゴモゴと何か言いかけましたが…、
「……いや……。
特段、進展はないな……」
少しかぶりを振って、そのままスタスタと歩き去りました。
「(なんだ、なんだ?
進展がないって顔じゃなかったぞ。
…俺に言わないってことは、言わないほうがいい理由でもあるのか…?)」
部長の後ろ姿を見送りながら、オーグチさんが心の中でつぶやきます。
「(デリケートな根回しが水面下で進行中ってか?
ちぇっ。俺もまだまだ、信用されてないんだな…)」
彼は軽く舌打ちすると、踵を返して再び歩き始めました。