そろそろカンベンしてくださいよ
フンフンと鼻歌を歌いながら、オーグチさんが資料室へと続く、長い廊下を歩いています。
前方からゆっくりとした足取りで、一人の男性がこちらに向かってきました。
「お、若!おはようございます。
今日もバシッと決まっておりますなあ!」
「…もう、オーグチさん。
そろそろ若は、カンベンしてくださいよ」
苦笑いしながら、男性が挨拶を返します。
彼は、泉さんと同期入社の社長の息子です。
オーグチさんの大学の後輩ということもあって、入社当時から、
オーグチさんとは親交を厚くしていました。
「じゃあ役員。取締役、昇進おめでとうございます。
スピード出世ですな!」
「オーグチさんだって、もう課長じゃないですか。
昇進おめでとうございます」
オーグチさんは頭をかきながら、ガハハと豪快に笑います。
「ところで若。
最近、ご無沙汰してるのですが、そろそろまた…」
彼は口元で、クイッとおちょこを飲むしぐさをします。
「…行きませんか?」
「いいですねえ。歓迎会も兼ねて、皆さんでくりだしますか!」
若は目をキラキラと輝かせながら、そう答えます。
「あ…いや。
それとはまた別に、少人数で集まってゆっくりと話すやつがやりたいですね」
「なるほど。
なにか折り入って、話がおありですか?」