百戦錬磨の営業の鬼
「い、いえ……簡単にってわけでは…」
星くんはそう言うと、頭をポリポリかきながらうつむきました。
「岩田さん。先ほどのお話で、
業務部内の改善活動という枠内では、全社的な動きがとりにくいとおっしゃってましたが…、
どのような形ならやりやすいんですか?」
若からの質問に、岩田部長はチョット考える仕草をしてから答えます。
「そうですな……、
例えばシステム企画室のような独立した部署があれば、
組織の垣根を越えた全社的な動きがとりやすいかと…」
岩田部長は若に、システムの企画と開発を行う独立した部署が必要なこと、
先々はメンテナンスや水平展開のニーズが発生することなどを説明します。
「……岩田さん、VBAでそんなことが本当に可能なんですか?」
「ここ一、二年の、星たちの仕事っぷりを見れば、十分可能だと思います」
岩田部長は若をまっすぐに見つめ、きっぱりと言いました。
「(岩田さん、いよいよ畳み掛けてきたな…。
さすが百戦錬磨の営業の鬼。
……その手練手管をじっくり拝見させてもらうとするか…)」
ぐでんぐでんに酔っ払いながらも、オーグチさんは岩田部長と若とのやり取りを、
一言一句、聞き漏らさないように聞き耳を立てています。
「(あらまあ…料理頼みすぎちゃったかしら…。
結構残ってるわ、もったいない…)」
泉先輩はテーブルの料理の残り具合をチェックしながら、心の中でつぶやきます。
「(やった…若と話したぞ!
……ほんの、ちょっとだけど…)」
星くんは若と会話ができた安堵感から、やっと最初のビールを飲み干すことができました。