「すみませんねえ。タクシー代わりに使っちゃって…」
「いえいえ。このあと得意先を回る予定でしたから…、ついでですよ」
まもなく10時になろうかという頃、オーグチさんと若を乗せた社用車は、駅に向かってひた走っていました。
「昨日の経営戦略会議……圧巻でした。
まさかの、総務部長からの援護射撃まで飛び出したんですよ!」
「え!?…あの梶田部長が……ですか…?」
「ええ。岩田さん、ちゃんと根回ししてたんでしょうね。
VBAが会社の将来を変えるかもしれない…。
梶田さんも米谷顧問も、同じことを言ってましたよ」
「そうですか……ブイビーエーが会社の将来を…」
オーグチさんは、まっすぐ前を見ながら、若の言葉にうなずきます。
「僕も詳しくは知らないのですが、他の難しい開発言語だと、
どうしても"業者におまかせ"になってしまいます。
……でもVBAなら、自分たちでシステムを手作りできる。
業務のことを一番理解してる我々が、"自らの手で自由に"開発できる。
…これは、大きいですよ」
「そうですね…。
正直、ウチの泉がスタンダードをとったときは驚きました。
そんな才能があったのかと…。
でも、そうじゃないみたいです。
……ブイビーエーってのは特別なスキルがなくても、学べば誰でも、
ある程度の開発ができてしまうシロモノのようです」
交差点を右折すると、フロントガラスに駅舎ビルの姿が飛び込んできました。
「期待してますよ。システム企画室」
「まあ、見ていてやってください。
本当に、わが社の将来が変わるかもしれませんよ」
オーグチさんはそう答えるとぐるりとロータリーを回り、ビルの入口前に車を付けました。