「泉くん、星、岬くん、ちょっと話がある。
キリのいいところで、こっちに来てくれないか?」
星くんたちはキョトンとした顔で席を立つと、岩田部長の元に集まりました。
「部長、お茶です。
ぬるめにしておきました」
オーグチさんが差し出した湯呑を手に取ると、部長は一気に飲み干します。
「先ほど、経営戦略会議で決まったことを伝えるから、しっかり聞いてくれ。
……現在、業務改善部隊として行っているVBAの開発を、そっくりそのまま、
システム企画室の業務として引き継ぐことになった。
メンバーは従来どおり、泉くん、星、岬くん、森川の4名。
加えて、室長はワシが業務部長と兼任、副室長は小口くんが営業課長と兼任する」
星くんたちは要領を得ない顔で、お互いを見つめ合います
「あのう…。
それって部長、今までとどんな違いがあるんですか?」
「……おまえたちの仕事に大きな違いはない。
が、"業務改善"の一環としてやってきたVBAの開発が、れっきとした"業務"になる。
今まで手が出しづらかった他部署の業務も、大手を振って開発できるようになるぞ。
あと、少しだが室として予算もつく」
「…組織上の位置づけは、どうなるんです?」
オーグチさんが、2杯目のお茶を差し出しながら尋ねました。
「本当は社長直轄の独立した組織にしたかったんだが…。
どうしても社長が首を縦に振らなかったので、業務部内に新設ということになった。
ただ、組織の垣根を越えて活動できることは、お墨付きをもらったので安心していいぞ。
正式な辞令の交付は次年度だが、明日から暫定的に、業務改善部隊がシステム企画室として稼働する」
「あたしたち、昇進したり昇給したりするんですか?」
眼をキラキラさせながら泉先輩がそう尋ねると、部長は首を横に振ります。
彼女は露骨にがっかりした表情をすると、小さくため息をつきました。
「活動方針についてはワシと小口くんで、打ち合わせをする。
決まり次第、伝達するから、そのつもりでいてくれ」
部長がそう言い終わった瞬間、定時のチャイムが社内に響き渡りました。