「よっと…、出るところせまいから、足もと気をつけてくれよ」
「わかりました。星主任」
会社の備品室から星くんと八木くんが、机を運び出しています。
「…いいよ。いつものように呼んでくれて」
「いや…ここは会社だし。いつもみたいに呼び捨てでは呼べないだろ…」
八木くんは、オフィス・ヤギとして、星くんの会社と業務委託契約を結びました。
火曜日と金曜日は常駐、それ以外は彼のマンションで在宅作業をすることになっています。
「こんなこと、ウチの若いのに手伝わせたのに」
「いやいや、これも立派な仕事だから…」
泉先輩と岬さんが、事務所のドアを押さえています。
二人は汗だくになりながら、事務机を運び入れました。
「うわあ…。結構ホコリかぶってますね。
あたし、雑巾を持ってきます」
そう言うと岬さんは給湯室に入り、バケツと雑巾をとってきました。
「あ、岬さん。後は自分で拭きますから……もう、お仕事に戻ってください。
皆さんも、ありがとうございました」
八木くんはペコリと頭を下げます。
彼の机は、島型にレイアウトされたオフィスの、入り口側の端に置かれました。
常駐するときは、ここが彼の居場所になります。
「火曜と金曜は、こっちにいるんだよね。八木っち」
泉先輩が、LANケーブルと電源タップを手渡しながら尋ねます。
「はい。それ以外は自宅で作業をしていますので、
何かあれば、遠慮なく電話してください」
八木くんは、机の下に潜り込みながら、受け取ったLANケーブルと電源タップの配線を行います。
仕事のできる環境が、徐々に整いつつありました。