5杯目の赤ワイン
ちょうどその頃、オーグチさんは自宅で、4杯目の赤ワインを飲み終えたところでした。
「…ああっ!
もうそろそろ切り上げて、寝なきゃいけないのに……!!」
彼は、ためらいながらも5杯目の赤ワインをグラスに注ぐと、鼻元に近づけてクンクンと匂いをかぎました。
「ああ…この芳醇な香り…。
とっておきのモンローズのワインを開けるべき日が、ついにやって来るとはなあ…」
オーグチさんはグラスのワインを口に含むと、天にものぼる至福の表情で、口の中でころがします。
「…ああ、うまい。うまいぞお。
課長昇進を肴に飲む酒が、こんなにうまいとは……。
30代前半で課長昇進は、悪くない。
悪くないぞお。
…むふっ、むふふふふふふ…」
彼はブツブツとつぶやくと、気持ちの悪い笑みを浮かべます。
「星も主任になったし、新しいメンバーも入ったしな。
森川っていったっけ…。
元気のいいやつだったな」
オーグチさんは、残り少なくなったモンローズのワインボトルを、悲しそうに見つめます。