帰宅途中の電車にて
「…VBAの達人……ねえ」
帰宅途中の電車に揺られながら、森川くんは日足の長くなった窓の外を眺めます。
「(岬先輩も勉強会に行ってたってことは、その八木って人は、先輩の師匠みたいなもんだろ?
……あのとき明らかに、岬先輩は俺に参加してほしくなさそうだった…)」
森川くんの頭の中で、先刻のシーンが鮮やかによみがえります。
彼は頭の中で、勉強会を断った理由について、あれこれ考えをめぐらしました。
「(…違うか。
本当は、その八木って人に情けなく指導される俺の姿を、先輩に見られたくないだけだ…。
……早くVBAをマスターしよう!
…先輩たちに肩を並べるくらいに。
勉強会はそれからでいい…それまで俺の師匠は、岬先輩ただ一人だ)」
「(……それにしても先輩、本当カワイイなあ…)」
森川くんはカバンの中からテキストを取り出すと、顔を赤らめながらテキストを覗き込みました。
ちょうどその頃、ガランとした事務所の中で岩田部長が一人、もの思いにふけっています。
「星たちがそろっていないということは、今日は例の勉強会の日か…。
星のやつ…"VBAの達人"に、あれからもちゃんと入社を打診してるんだろうな…?」
部長は机の上の茶碗を手に取ると、冷めたお茶を一気に飲み干しました。
「システム企画室か…。
オーグチめ、自分が室長の椅子に座りたいのだろう…?
まあ、彼なら適任だと思うが…、若と飲んだぐらいでそう簡単に行くか」
部長は静かにそうつぶやきながら、空になった茶碗を見つめました。