時計はもうすぐ7時
定時が過ぎました。
勉強会のない星くんたちは早々に帰宅しましたが、森川くんは仕上げの作業をがんばっています。
「月曜日にはなんとか、修正済みの"営業進捗管理一覧ブック"をオーグチ課長に見せられそうだぞ…」
時計は、もうすぐ7時をまわろうとしています。
事務所のドアが開き、ヤマシタさんがひょっこりと顔をのぞかせました。
「なんだ森川、また残業か?
……がんばってるじゃないか。ほれ」
そう言うと、ヤマシタさんは自販機のコーヒーを彼に手渡します。
「え、イイんですか?ありがとうございます、いただきます!」
森川くんは、嬉しそうにコーヒーを受け取りました。
「なんか、難しそうなことやってんだな…。これ、英語か?」
ヤマシタさんは、森川くんのモニターを覗き込みます。
画面には、VBEのコードウィンドウが表示されていました。
「えっと、これはVBAと言うプログラミング言語です。
今、オーグチ課長依頼の、営業進捗管理一覧ブックの検索機能を実装してるところです」
ヤマシタさんは、ポンと手を叩きます。
「おー!!それ、俺がオーグチさんにお願いしたやつだよ!
…そっかあ、お前が作ってくれてたんだ。サンキューな!」
「えへへ……仕事ですから。
……ヤマシタさん、ちょっと話聞いてもらっていいですか?」
森川くんはヤマシタさんに、自分が入社以来、ずっとVBAの勉強をしていること、
VBA以外の業務をしていないことを明かします。
「……時々ふっと考えるんです。
こんなことばかりしてていいんだろうかって。
VBAをするために、この会社に入ったんだろうかって…」
ヤマシタさんは、真剣な表情で彼の話を聞いています。
「俺は頭が悪いからよくわからないけど、VBAで仕事が楽になるのは間違いない。
…以前、星が作ったVBAで、追加アイテムが一瞬で色分けされるのを見て度肝を抜かれたことがある…。
こんなことが可能なのかって」
ヤマシタさんは、星くんが"オーダー表追加アイテム確認システム"のお披露目をした日のことを、
懐かしく思い出します。