「ブイビーエーの達人ですか?」
客先に向かう営業車の中で、オーグチさんが助手席の岩田部長に尋ねます。
「星のVBAの師匠だそうだ。
岬くんにも確認したから、実力が確かなのは間違いない」
「そうですか……」
交差点の手前で信号が黄色に変わります。
オーグチさんはゆっくりとブレーキを踏み、車を停止させました。
「開発の人員が足りないなら、総務にかけあってもよかったんじゃないですか?」
「……VBAも今は忙しいが、永久に忙しいわけでもあるまい?
むやみに増やすと、暇になったときがな……。
ベンダーでまかなえるうちは、極力メンバーを増やさないようにするつもりだ」
赤信号をまっすぐに見つめながら、岩田部長がそう答えます。
「確かに……増やすのは簡単だけど、減らす方はなかなか難しいっすもんね。
それはそうと…、わざわざ部長にご足労いただくほどの案件でもなかったんですが…」
信号が青に変わり、オーグチさんはゆっくりと車を発進させます。
「まあ、そう言うな。
あの課長とはつきあいが長いんだ。
瞬間湯沸かし器だから、対応を間違えると地雷を踏むぞ……。
ワシが昔話で、場を和ませてやろう」
岩田部長がオーグチさんの方を見ながら、ニンマリと笑います。
軽快に進む車の前方に、客先の正門が見えてきました。