「…これは、ビジネスホテルとワンルームマンションです。
建物としては、よく似た造りですが、使用用途が全く違います。
ビジネスホテルはExcelのワークシートで、ワンルームマンションがAccessのテーブルに当たります」
彼は、ビジネスホテルを指し示しました。
「ビジネスホテルは、どの部屋に、誰が泊まるということに、特にルールはありません。
空き状況によって、宿泊客は適当に部屋を割り当てられます。ここで言う宿泊客は、データのことです」
次に、ワンルームマンションを指し示しました。
「対してワンルームマンションは、どの部屋に、誰が住むのか、契約で厳密に決められています。
ここで言う住人は、同じくデータのことを指します」
岬さんと泉先輩は、食い入るように八木くんの説明に耳を傾けます。
「例えば…ある階で水漏れが起きたとき、ホテルなら予約客を他の階に移す…
なんてこと簡単にできますよね?
でも、マンションで同じことが起きたとき、住人を他の階に引っ越しさせる…
ということは、簡単にはできません」
「ああ…行の移動のことを言ってるのね…」
隣でボソッとつぶやく泉先輩の声を聞き、岬さんはゴクリと喉を鳴らしました。
「Excelは表計算ソフトなので、どのセルに、どのデータを入れるかは、ユーザーが自由に選べます。
Accessのようなデータベースソフトでは、どの項目に、どのデータを入れるか、厳密に定義されていて、
ユーザーが勝手に変更できません」