赤信号に変わった交差点の前で、星くんがゆっくりと車を停止させます。
オーグチさんは、しかめっ面をしながら、星くんの顔を覗き込みました。
「……俺から聞いたって、絶対言わないでくれよ。
……社員旅行の夜、宴会でめちゃくちゃ盛り上がったんだ。
そこで泉さんが、あるとんでもないことをやらかした。
それをフォローして、うまく処理してくれたのが水木さんなんだ。
だからそれ以来、彼女は水木さんに頭が上がらないんだよ」
信号が青に変わり、星くんがゆっくりと車を発進させます。
「とんでもないことって、一体何をやらかしたんです?」
オーグチさんはブルンブルンと、首を振りました。
「…俺の口からは、とても言えん!
…悪いが、本人に直接聞いてくれ」
星くんが大きくハンドルを切ります。
交差点を右折した社用車の、フロントガラスに駅舎ビルの姿が飛び込んできました。
そのころマンションでは、八木くんが次の作業に取り掛かろうとしています。
「テーブルからデータを取得する処理と、更新する処理は作成した。
……あとは、新規データの登録と、既存データの削除を作れば完成だな…」
彼はPCの画面をにらみながら、ブツブツとつぶやきます。
「登録処理は大変だから、先に削除を作っとくか…」
カタカタとキーボードを打つ音が、室内に響きます。