八木くんは星くんの顔をジッと見つめ、急に真剣な口調で語りだしました。
「ああ、マジだよ。
…星、VBAで開発だとか業務改善だとか…、それって本来、ノルマで与えられるものではないだろう?
ノルマの業務は、たとえ時間がかかっても…残業してでも、指示された通りの業務をこなせばそれで済みだ。
業務改善して作業効率を高めていく…ということは、おまえを含めた社員のみんなが、ポジティブに仕事に取り組み、会社の業績を少しでも伸ばそうと努めるのでなければ、そもそも必要のないことだ。
ちがうかい?」
八木くんは、冷めかけた八木特製ブレンドを口に運びました。
「はっきりいう。
星、おまえがイヤイヤVBAの開発に取り組んでいるのなら、その岬って子にプロジェクトリーダーを譲るべきだ。
VBAの開発は、みんなの業務を少しでも楽にしたい、会社の業績を少しでも向上させたいという、
"熱い"思いが不可欠なんだ。
人にいわれたから、VBAで業務改善しますって人には、正直つとまらないよ」
ガーーーン!!…と、星くんの頭の中に大きな音が鳴り響きました。
「(…確かに八木のいうとおりかもしれない…。
岬さんは、誰にいわれたわけでもなく自ら進んでVBAを学び、資格まで取ろうとしてるんだ…。
それに比べて俺は…)」
星くんは、うなだれてしまいました。
「…いや、すまん。ちょっといいすぎだったかな…」
頭をポリポリかきながら、八木くんが星くんにわびます。
「いや…、おまえのいうとおりだよ八木。
確かに俺の中に、"やらされてる"…って意識があったんだ。
VBAでやろうとしていることは業務改善であり、みんなの仕事を楽にしようってことなんだよな。
…それってよく考えたら、"すばらしい"仕事だよ。
"胸を張って誇れる"仕事だよ。…ちょっと、感動した」
星くんも恥ずかしそうに、頭をポリポリとかきました。
「…八木特製ブレンドが冷めてしまったな。
新しいのをいれてくる。それを飲んだら早速、
ブラッシュアップしたコードを実際のシステムに組み込む部分について、取りかかるとするか…」
八木くんは少し照れながら、コーヒーサーバーを片手にキッチンへ入っていきました。