「ピンポーン」
心なしか普段より寂しげに、八木くんのマンションのチャイムが響き渡ります。
「おー星か、待ってたぞ。まあ上がんなよ」
ガチャリとドアを開けた八木くんに、星くんは持っていた紙袋を差し出します。
「…これ、おみやげだよ。いつもVBAのこと教えてくれてありがとな」
「なんだ。わざわざ気を使ってくれなくてもいいのに…」
八木くんは手渡された紙袋を、うれしそうにのぞき込みます。
「コーヒー豆か!!サンキュー!助かるよ。
…豆はマンデリンとトラジャか…さすが星、俺の好みがよくわかってるな…
これで八木特製ブレンドがいれられる。座ってちょっと待っててくれ」
そういうと八木くんはキッチンにいき、コーヒーをいれ始めました。
「…それで今日の本番はどうだった?プログラムはうまくいったかい?」
「うん、バッチリだったよ…。泉先輩も江口さんもすごく喜んでくれてたし…」
キッチンからいれたてのコーヒーを手に戻ってきた八木くんは、
「その割には、あまり元気がないな?会社で何かあったのかい?」
星くんにたずねます。
「…うん…じつは部長がね。ちょっと、とんでもないことをいいだしちゃってね…」
星くんは今日の昼休み、部長がいった"部内の業務をすべてVBA化する"という話を、八木くんに打ち明けました。
「…とね、こんな具合なんだよ。八木、おまえどう思う?」