これは業務命令だ
「…星、ワシのゴルフのハンデがシングルなのは知ってるだろう?」
「へ!?……は、はい。もちろん知ってます」
いきなり話が変わり、星くんは面食らいます。
「ワシがシングルになれたのは、学生時代にレッスンプロに付いて、みっちりと基礎を学んだからだ。
我流でゴルフを始め、シングルになれる者は少ない。
ましてやプロテストに合格する者なんて皆無だろう。
星、おまえの作っているVBAは"我流"なんだよ。これはワシの責任だ。
いきなりおまえに開発させ、十分なトレーニングをしてこなかったからな…。
だからこそ、今、おまえにVBAの基礎をみっちり学んでほしい。
我流には限界があるんだよ」
星くんの胸に、部長の言葉が突き刺さります。
自分でもときどき、(もし八木がいなくなったら、俺はいったいどうなるんだろう?)と、
不安になることがあるからです。
それでもやはり……試験を受けるのはイヤでした。
「…で、でも、部長。開発のほうはどうするんです?
現在も、ひっきりなしに新しい案件が持ち込まれてるんですよ?」
「来週、図面管理システムをリリースしたところで、いったん新規開発は凍結する。
しばらくの間、既存システムの修正要望と不具合対応を除き、開発はなしだ。
業務と並行して、試験勉強しろ。
だらだら続けてもしょうがないので、一応、期限を設ける。
4か月の間に、ノーマルとスタッドレスの試験に合格しろ」
「ベーシックとスタンダードです。部長」
岬さんがくっくっと笑いをこらえながら、誤りを指摘します。
「うむ………もう一度言うが、これは業務命令だ。
試験のテキストや受験にかかる費用は、会社が一切負担する。
ちゃんと領収書をもらっておくんだぞ。
あっと…もちろん、岬くんも一緒に受験してもらってかまわないぞ。
むしろ星の尻を叩いてやってほしいくらいだ。よろしく頼む」
岬さんがチラッと星くんを見て、フフンと微笑みます。
「以上だ。試験に関する詳しいことは、彼女に聞くように。
星、期待しているぞ」