まずはコードの確認
次の日、会社では星くんが、朝から支給品管理システムの修正に取り組んでいます。
「えっと…、オーグチさんからの依頼は、こうだったな…」
「まずは現在、ボタンが呼び出してるマクロを確認するか…」
星くんはVBEを起動し、ボタンから呼び出されているマクロの、コードの確認に取り掛かります。
「はあ~~~」
星くんの席から少し離れた席では、岬さんが朝からため息をついています。
彼女は昨日の勉強会で、星くんからかけられた何気ない一言が、ずっと気になっている様子です。
「セミナー講師かあ…」
岬さんは、VBAが大好きです。
今まで、VBAに携わる仕事をするには、開発の仕事をするしかないと思っていました。
しかし思いもよらなかった、"人にVBAを教える"という選択肢があったことに、昨日初めて気づいたのです。
「やばい…。開発より、おもしろいかも……」
岬さんは頭を抱え込み、もう一度大きくため息をつきました。
「ぶつ、ぶつ、ぶつ、ぶつ…」
星くんの向かいの席では、泉先輩が何やらつぶやきながら、忙しそうに手を動かしています。
「今までVBAなんて全然興味なかったけど、やりだすと結構楽しいもんね。
…年賀状の印刷とか、家計簿の管理なんか、VBAを使えば楽勝でできそうだわ」
カタカタカタと、勢いよくキーボードを叩きながらも、頭の中では、昨日の勉強会のことを思い出していました。
「…スタンダードかあ。
別に資格なんか、どーでもよかったけど…、独学でベーシックが取れたんだし、
八木っちに教えてもらえば、スタンダードも意外にいけそうね。
……こんなご時世だし、資格くらい持ってても、別に損はしないわよね……」
スターン!
小気味いい音を立てて、泉先輩がEnterキーを弾きました。