昨日のマンションの帰り道
「…しかし、こんな単純なミスをするなんて、俺もまだまだだな…」星くんは昨日、八木くんのマンションの帰り道で、岬さんとした会話を思い出していました。
「…岬さんは最初から、俺のVBAが初心者レベルだって…わかってたんだよね?」
「そりゃ、わかりますよ。
Rangeオブジェクトのセル指定に変数を使ったり、
最終行の取得方法がわからずに行番号を決め打ちしたりしてるんですもの」
岬さんが口元をおさえてクックッと笑います。
「岬さんも人が悪いなあ。
…そんな俺をVBAのプロ呼ばわりして……思い出すだけで顔が赤くなるよ」
「にひひ……ごめんなさい。
でも、星さんて、いつかVBAのプロになるって…本当にそう思ってますから」
「へ…。なんで、そう思うんだい?」
「…だってVBAって、つまるところ情熱でしょ!」
岬さんがキラキラと光る目で星くんを見つめます。
星くんはドキンとして、顔を赤らめました。
「星さん…、星さんってば!」
「うひゃあ!びっくりしたあ!!…み、岬さんか、どうしたんだい?」
回想にふける星くんの背後に、いつのまにやら岬さんが立っていました。
「…もう、さっきから声をかけてるのに!
……岩田部長とオーグチさんが、会議室に来てくれって言ってますよ!!」
「へ。部長とオーグチさんが?
…修正なら2日ほど時間をくれるって言ってたし……いったい、何の用だろ?」
キョトンとする星くんの脳裏に、なんとなくイヤな予感が走るのでした。