ちゃんと部長の了承を得るから
泉先輩が平然とした顔でそう言うと、星くんはあわてて説明します。
「で、でも…。会社が費用を負担することですし…勝手に受験というのは…」
「ああ、それなら大丈夫。ちゃんと部長の了承を得るから。
…あの岩田部長が私の受験に、"ダメ"なんていうはずがないわ」
「(…す、すんごい自信だなあ…)」
でも星くんも心の中では、(きっと部長は了承するだろうな)と思っています。
「じゃあ来週、一緒に受験しましょう。
岬さんはどうするんだい?」
岬さんは手を合わせて、上目づかいに二人を見つめました。
「…すみません。
あたし、ベーシックの試験はもう自分で受けて合格しちゃったんです…」
「おおーーー」
今度は泉先輩と星くんが目を見開いて、同時に声を上げました。
「さすが岬さん。…まあ、岬さんならベーシックくらい楽勝だろうな。
一緒に開発してて、実力はよく知ってるし…」
星くんは腕を組み、えらそうにうなずきます。
まるで、自分ならベーシックはおろかスタンダードでも楽勝だと言わんばかりです。
この後、部長から正式に了承を得た泉先輩は、星くんと一緒に受験の準備を進めます。
そんな二人を岬さんは、不安そうな顔で見つめていました。
「星さん。ベーシックの試験勉強はどうするんです?
よければあたしの公式テキストを貸しましょうか?」
星くんは少し首をかしげながら…、
「…いいよ、別に。
さっきパラパラと見たけど、普段開発してる内容のほうが、よほど高度なことをやってるし………
ぶっつけ本番で大丈夫っしょ」
いとも簡単にそう答えました。
「(………!!それって、岩田部長が本来望んでる"VBAの体系的な知識を身につけてほしい"
って想いを踏みにじるんじゃあ………!)」
岬さんはのどまで出かかった言葉を飲み込みました。